臨床心理室

心と技術で高齢者の心理支援を実践します

公認心理師、及び臨床心理士は、心理学に関する専門的知識や技術を用いて心理状態の観察や人間のこころの問題にアプローチを行なう「心の専門家」です。

臨床心理室では、心理アセスメントや心理療法などを行ない、患者さまが望む環境で自分らしい生活を送ることができるようお手伝いをしています。

また、他の専門職種と協力し、患者さまのご家族や地域の支援者が参加できる交流会を開催するなど、患者さまだけではなく、そのご家族や支援者へのサポートにも力を入れています。

心理アセスメント

医師の指示のもと認知機能検査、知能検査、人格検査など患者さまに合わせて必要な検査を行ない、認知機能や心理面からその方の状態を評価します。その結果は、診断や治療の参考になるだけでなく、患者さまご本人やご家族の疾患への理解にも役立てられています。

1. 認知機能検査

当院で最も多く行われているのは、認知症が疑われる方への認知機能検査です。
脳機能のバランスなどの特徴をとらえることができ、認知症などの疾患によって低下している機能、維持されている機能について調べることができます。

簡便な検査(長谷川式認知症スケール、MMSE)

長谷川式認知症スケールやMMSEは認知症のスクリーニング検査として、日本の高齢者に関する医療や福祉・保健の現場で最も多く用いられている検査です。短時間で簡便に施行できるという特徴があります。

詳細な検査(日本語版COGNISTAT、ADAS-Jcog)

口頭による質問形式の課題や図形や文字を見たり描いたりする課題など、さまざまな側面から評価します。日本語版COGNISTAT(コグニスタット)は、認知機能の多面的評価を目的として開発された検査です。「見当識」や「記憶」など複数の項目の認知機能プロフィールパターンをグラフで表示し、患者さまの能力のバランスを視覚的にとらえることができます。検査の所要時間は20~30分です。

その他の検査(前頭葉機能検査、行動記憶検査など)

患者さまの状態や症状に合わせて行なっています。前頭葉機能検査(FABなど)は物事を計画立てて実行する能力(遂行機能)などを評価することができます。リバーミード行動記憶検査は、日常生活で支障をきたしそうな場面を想定して行なう検査で、患者さまの記憶力の低下が日常にどのように影響しているかを具体的に把握できます。

2. 知能検査(WAIS-Ⅳ、コース立方体組合せテストなど)

患者さまの知的機能のバランスや特徴、元々持っている能力などを調べる検査です。
WAIS-Ⅳは世界で広く使われている代表的な知能検査で、全体的な知的能力(IQ)の他、認知能力を多面的に捉えることで得意・不得意など、詳しく調べることができます。

3. 気分感情・人格検査、その他の心理検査

認知機能や知的側面以外にも、当院では抑うつや不安などの気分面や性格に関する検査も行なっています。
GDS高齢者抑うつスケールやPOMS、バウムテストなど患者さまの状態や様子に合わせて負担のないように行ないます。その他、家族の介護負担感やBPSD (認知症の行動・心理症状)の評価に関する検査(NPI)を行なうこともあります。

参考文献

  • 「認知症の心理アセスメント はじめの一歩」(黒川由紀子・扇澤 史子 医学書院)
  • 「高齢者こころのケアの実践(上)」(小海宏之・若松直樹 創元社)
  • 「日本語版COGNISTAT検査マニュアル」(松田 修・中谷三保子 株式会社ワールドプランニング)
  • 「神経心理学的アセスメント・ハンドブック」(小海宏之 金剛出版)

患者さまへの心理的アプローチ

認知症患者さまには、認知機能が低下しても、豊かな人格を保たれている方は少なくありません。患者さまの心理面に働きかけ、心身の安定を保つお手伝いをします。

個人へのアプローチ

心理相談(カウンセリング)

「これからどう過ごしていけばいいのだろうか」「家族とどう関わっていけばいいのかわからない」など、対人関係や今後の生き方などについてさまざまな心の悩みでお困りの方にカウンセリングを行なっています。

お気持ちを受け止め、一緒に整理していくことで、これから先の生活をより過ごしやすくするためのお手伝いをいたします。患者さまに合わせて回想法や芸術療法などをご提案させていただくこともあります。
カウンセリングは外来通院中の患者さま、入院中の患者さまどちらにも行なっています。
ご希望の方は、主治医にご相談ください。

集団へのアプローチ

1. 回想法

患者さまの情緒的安定や活性化、自然なコミュニケーションを主な目的に、毎週同じ時間・同じ場所に集い、懐かしい思い出や気持ちをゆったりと語り合う心理療法です。臨床心理士が司会進行を務め、お話を伺います。毎回テーマを設定し、テーマに沿った刺激物を囲みながら思い出を回想し(テーマ例:懐かしい遊び、季節の味覚など)、ときに笑いや涙も交えつつ、これまでの半生を振り返る、穏やかな時間を過ごします。

2. 認知活性化療法(CST)

CST(認知活性化療法 Cognitive Stimulation Therapy)は、認知症高齢者を対象とする14セッション1クールで構成されたグループプログラムです。イギリスで開発されて以降、根拠のある認知症の非薬物療法として世界中で広まり、日本版(CST-J)は2013年に山中らにより開発されました。

当院は、日本版開発の研究協力、地域の施設や病棟内での実践を経て、現在は外来患者さまを対象にプログラムを提供しています。パーソン・センタード・ケアの理念と、「楽しむこと」を主軸に置きながら、認知機能や気分、生活の質の改善を目指し、トレーニングを積んだ臨床心理士、精神科医師が実施します。言葉や数字に関する課題、昔懐かしい話題から最近のニュースについての意見交換など、多彩な活動内容に5~6名程度の少人数で取り組む、活気のある楽しいプログラムとなっています。

参加を希望される方は当院臨床心理室までお問い合わせください。病院のホームページや院内掲示にて開催情報をおしらせしますので合わせてご確認ください。(現在は新型コロナウイルス感染症の影響により開催休止中)

3. 多職種合同活動

入院患者さまを対象とした病棟活動として、看護師や作業療法士とともに患者さまに合わせた小集団活動を定期的に行っています。季節の作品づくりや足浴などのリラクゼーション、近隣公園へのお散歩など、患者さまが自分らしく過ごせるような時間づくりを目指しています。

ご家族・地域へのアプローチ

1. 家族支援委員会

家族・介護者への支援として、臨床心理士が中心的となって多職種で構成された「家族支援委員会」を組織しています。当院にかかられている患者さまのご家族を対象に、年に数回、認知症に関する勉強会や参加者同士の交流会などを行う家族会を開催しています。その他にも、認知症理解や疾患受容の促進、介護ストレスの緩和なども目的に活動しています。 

2. 認知症カフェ(Dカフェ)

臨床心理士が中心となり、どなたでもご参加いただける認知症カフェ「やわらかカフェ」を開催しています。「やわらかカフェ」では臨床心理士の他、看護師、薬剤師、精神保健福祉士などの専門職が参加し、日頃の介護の疑問に答えたり、同じ立場の方と体験を共有できる場を提供しています。そのほか、町田市内のスターバックスコーヒーで行われているDカフェや、オンラインで開催されているDカフェにも参加しています。

3. 臨床心理士による介護者等相談

臨床心理室では、町田市からの委託を受け、3つの高齢者支援センター(地域包括支援センター)で「臨床心理士による介護者等相談」を担当しています。月に1回、高齢者支援センターあるいは支援者のご自宅に出向き、認知症高齢者を介護する家族介護者や認知症初期症状を抱える高齢者を対象に面接を行っています。

4. 講演等

当院主催の市民公開講座で地域住民向けの講演を行なったり、高齢者支援センターなどからの依頼を受けて家族介護者教室の講師を務めるなどの地域活動も積極的におこなっています。
お気軽にお問い合わせください。

講座・イベントに関する問い合わせ先 042-737-1257〈広報企画室〉